自由な生活、管理された生活。希望が生きる武器となる。

読書が好きで、読書メモがわりにブログ始めました。

多分、昔の本が多めになると思います。

遅読なので、更新も遅めですが、コツコツ書いていきます。

基本的にネタバレありですので、内容知りたくない方は読まない方が良いです。

 

安部公房砂の女

 
オススメポイント

この作品は、20数ヶ国語に翻訳された名作で、20世紀を代表する世界的作品です。

内容は、一流の文学作品ではありますが、ミステリー的要素もあり楽しめます。

男・砂の女・村人の行動理由が、話が進むにつれて明らかになっていく。

そして、男が、脱出が不可能と思われる砂の穴に挑む場面、そこから、抜け出し、村の中を、隠れながら逃げる場面など、読んでいて手に汗握る面白さがあります。

また、主人公が思考したている場面も多く、その考えの表現が独特で面白い、安部公房の比喩を楽しむのお勧めです。

 

あらすじ

昭和30年8月のある日、男が一人、行方不明になった。事件に巻き込まれた様子も無いし、行方をくらます同期もない。
男の妻や、同僚も全く心当たりがなかった、自殺の線も考えられたが、死体が発見されないのだから問題になりようがなかった。
 
教員の男(仁木順平)は、休暇を利用して、砂地に住む、珍しい昆虫の採集が目的で、S駅に降り立ち、バス終点の砂丘の村に行った。
そこの砂地で昆虫採集をしていると、村の老人が警戒して近づいてくる。漁師らしい老人に、役場の人間か尋ねられるが、そうでは無いと伝えると安心する。宿泊に困っているようであれば、私が都合してあげようと、部落の中の或る民家を紹介される。
その家は、砂の穴の中にあり、縄ばしごがないと降りられない、そこに女が一人で住んでおり、毎日、夕方になると、朝方まで砂掻きをしている。
 
男は、そこで一夜を過ごすが、起きると縄ばしごが取り外されて降り、穴の中に閉じ込められたことを理解する。そのことの違法性、理不尽さを、女にも、村人にも訴えるが、相手にしてもらえない。
 
この村は、砂かきをしないと、砂がどんどん積もり、村が砂に埋もれていく。
色々な対策や、方法を検討したが、砂かきをすることが安上がりだということだ。
そこで、人手が必要で、この男以外にも、この村の穴に取り込まれた男がいる。
 
男は、抵抗を試みるが、水の供給を断たれて、逆らうことができない。
脱出を試みる自作のロープを使い、穴から出れたが、村の中を逃走中、村人に見つかり、人食い砂地に追い込まれ、そこで溺れてしまい、村人に救出され捉えられる。
 
男は、また穴の中に戻される。諦めに似た境地で、砂かき作業に没頭する、そして、女との夫婦のような関係に慣れていく。
その中で、男は鳥を捕まえる罠を作る、しばらくして、それが蒸溜装置になりそうだと発見し、その研究が日課となる。
時が流れ、3月になり、女が妊娠をしていることがわかる、その2ヶ月後、女は子宮外妊娠で下半身から出血する。
村人達に町の病院に運ばれていった。村人は慌てていたのか、穴の縄ばしごをつけたままになっていた。
男は、縄ばしごを登り、深呼吸をして海を眺める、蒸溜装置が気になり、また、穴の中に戻る。
蒸溜装置のことを、一番の理解者である村の人に話したい。逃げることは、その翌日にでも考えれば良いと思った。
 
失踪から7年後の昭和37年10月5日、仁木しの(男の妻)の申立てにより、家庭裁判所民法第30条に従い、行方不明の夫・仁木順平を失踪者として審判を下し、死亡の認定がなされた。
 

解説

男は、砂の穴に来る前は砂の流動性に憧れ、人生のよりどこがあるという幻想を否定していた。平凡な日常を受け入れ、人間性まで平凡になっている人間への反発を持っていた。また、奥さんとの関係も、上手くいかず不満を持っていた。


砂の女は、自由のない環境を受け入れて、その奴隷的な生活ありがたがく思っている考えなくても、仕事が与えられ、そこに入れば食うのには困らない。


ここで2つの生き方の対立が見られる、自由な生活、自分で判断する自由、その責任は自分で背負う。(砂的生き方)管理された生活、自分で考えないで、保護され、生活を保障される(定着的生き方)


また、自分の帰属について、片道切符と往復切符のがあり、片道切符とは[繋がりのない毎日、明日どうなるともわからない暮らし]往復切符とは[昨日の続きが明日も続く、安心して休むことができる暮らし]


男は、往復切符(繋がりのある安定した生活)を持っていたから砂的生活に憧れていた女は、片道切符(明日は、どうなるかわからない、その日の作業に必死)しか知らないため、定着的生活を求める


男は逃げることに失敗して、女に語る「向こうの生活が羨ましく見えるこのまま暮らしていて、どうなっていくのだろうと思うことがたまらないでも、どっちの生活でも、そんなことはわかりっこない気を紛らわせてくれるのものが、多い方が、なんとなくいいような気がする」


また、男は人間の恐る孤独について、幻を求めて満たされない、渇きのことと理解し繰り返される日課が、ささやかな充足感を与え、幻を求めることを和らげることを実感するこれは、男が、平凡な日常の繰返しも馬鹿にできないことを感じる。
そして、その繰り返しの日々の中に、鳥の罠の装置「希望」を作る。それが、文字どおり男の希望になり、過酷な砂の生活を激変させる


男は、希望を得ることにより、他人から支配されない武器を得た。その武器によって、この世界の捉え方が変わり、前向きに生きることができる希望があれば、どんな生活でも絶えることができる。穴の中にいても、穴の外から穴を眺めている感覚になる逆に言えば、希望のない生活は、どんな場所にいても、耐えられないということだろう

男は、希望によって、往復切符を手にいれた。